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AIU Chat Night~教職員と語ろう~ 第5夜(フローラン・ドメナック教授、イリーナ・クズネツォワ助教)

互いの顔が見える関係 - 1学年の入学定員が175名と小規模であることは、国際教養大学の良さのひとつです。コロナ前は学生の89%がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活し、留学生も交えて多文化共生の空間を形成していました。現在は1年次(2021年度入学)の学生全員と希望する上級生全員が学内で生活しており、キャンパス内での活動も段々と拡がっています。今回はキャンパスに住む学生である赤羽 柚美さん(3年次・取材)と星野 慧さん(2年次・写真撮影)に学内で開催されたイベントをレポートしてもらいました。

コミュニティとしてのAIUを体感する「場」として企画されたシリーズ「AIU Chat Night~教職員と語ろう~」(全7回)。第5夜は発起人の磯貝副学長をホストに、フローラン・ドメナック(Florent Domenach)教授(感性情報学、知能情報学、数理情報学)とイリーナ・クズネツォワ(Irina Kuznetcova)助教(教育工学、言語学)が、学生と語らいました。

学生と向き合ってパーテション越しに語らう教員ふたりの写真

(ク)皆さん初めまして。イリーナ・クズネツォワです。ロシア出身です。専門は教育とテクノロジーで、AIやテクノロジーシンギュラリティも私の研究分野です。AIUではメディアリテラシーも教えています。ゲームが学生の言語学習にどう貢献できるかを研究していますが… 歌うことがとても好きなので「歌手」と自己紹介しておきます(笑)。私も実は(AIUで教壇に立って1年目という意味で)皆さんと同じ1年生なんですよ。私は学ぶことが大好きで、今は、日本語も勉強中です。

(ド)皆さん、こんばんは。フローラン・ドメナックです。フランスから来ました。英語は第二言語です。
私はもともと数学が専門で、コンピューターサイエンスを研究しています。昔からリベラルアーツに関心を持っていましたが、実はフランスにはリベラルアーツの大学があまりありません。高校生の時には専門を決めるのが難しく、とても悩みました。特に社会学と数学で迷ったのですが、就職で役立つ方をということで数学を専攻しました。現在はデータマイニングなどを学んでいる一方で社会学や哲学に関することにもずっと関心を持ち続けています。

「社会」×「テクノロジー」の視点

(磯)先生は授業の中で、社会学的な観点も取り入れているのですね。

(ド)私はAIUで機械学習を教えていますが「なぜAIU生にそれを教えるのが大切か」ということを常に意識するようにしています。大半の学生がテクノロジーの専門家になるわけではない、という環境の中で、学生が機械学習を学ぶ意義は何でしょうか。
ウーバーイーツなど急成長しているビジネスに代表されるように、現在様々なテクノロジーが社会を変革していますよね。ほかにも、社会には人種差別のような課題がたくさんあります。テクノロジーやソフトウェアがそうした問題を再生産してしまうのか、それとも解決に導くのか。今後の社会のあり方に責任を持つ一市民として、その意義を社会学の視点から考えるのです。そういった視点を持つことができるのが、リベラルアーツ大学であるAIUでテクノロジーを教える意義かもしれません。

マイクを片手に学生に語りかけるドメナック教授

フローラン・ドメナック教授

(磯)グローバル・コネクティビティ領域(GC)は2021年度から新しくAIUにできた領域ですね。AIU生は、そういった分野を学ぶ大切さを理解していても、自分はついていけるのか、といった不安もあると思います。

(ド)確かに数学に代表されるような「理系」とされる学問分野に苦手意識を持つAIU生は少なからずいますね。ただ、皆さんはまだ本当の「数学」を知りません。高校までやってきた数学はあくまでも入試選抜のためのものであり、本当の意味での数学ではないのです。では、何が数学なのか。数学とは、発見であり、言語なのです。私の授業は高校数学のスキルを前提としていません。だから安心して飛び込んできて欲しいと思うんです。

「苦手」は「まだできない」だけ

(ク)私からは皆さんに質問があります。「自分の得意なことと、下手なこと」を教えてもらえますか?歌手である私の場合は(笑)歌うのが得意です。そして、苦手なのは絵を描くことです。こんな感じでお願いします。

(学生1)私は暗記するのが得意です。だから歴史は得意科目でした。苦手なのは、走ることです。マラソンは…無理です!

(学生2)私はそろばんが得意で、苦手なのは、泳ぐことです。

(学生3)私は初対面の人と話すのが得意です。でも、クリティカルシンキングとロジカルシンキングは苦手です。

(ク)磯貝先生とドメナック先生も、お二人の得意なことと苦手なことは何ですか?

(磯)掃除が得意です!そして先生と違って、歌うのは苦手です。No カラオケ!(笑)

(ド)何かを丸暗記するのは本当に苦手です。システムを覚えることは得意です。だから、数学が得意なのです。

(ク)皆さん、ありがとうございます!私がこの質問をしたのは、皆さんが自分の能力について、どれくらい自信があるかを聞きたかったのです。苦手なことをするときには、不安がありますよね。それは、その苦手なことに対する「自分なら対処できる」という感覚、自己効力感(self-efficacy)が低いからです。でも、この不安は克服できます。専門的には制御体験(mastery experiences)と言いますが…簡単に言えば、「まずは、やってみる!」です。いま皆さんが挙げてくれた「苦手なこと」は「まだ」できないだけなのです。そう考えると可能性が広がります。
実現可能なゴールをセットすることは大切です。「1日でゲームを作ります!」という目標は、きっと不可能でしょう。でも「1日でここまで勉強します!」という目標なら実現可能です。そうやって一度成功してしまえば、続けてどんどん成功できます。ネガティブな感情を乗り越えられるからです。だから、苦手なことは「まだできないこと」と捉えるようにしましょう。そうしたら、どうやって克服できるかを探すことができます。そして、できることが増えていくのです。自信を持つことは大事です。
GCの科目は「まだ」できないことかもしれませんが、やってみれば、できるようになるのです。

マイクを片手に学生に語りかけるクズネツォワ助教

イリーナ・クズネツォワ助教

触れたことのない言語を学ぶ

(磯)クズネツォワ先生は完璧なアメリカ英語を話されますよね。どうやって習得されたのですか?

(ク)たくさん、たくさん苦しんだのです…
アメリカの大学では最初、グループの中でも1番英語ができない学生でした。ロシアの家族には英語を話せる人がいませんでしたし。だから、アメリカでは絶対にロシアの人とは一緒に行動しないようにしました。いまメキシコにいる一番仲の良いロシアの友達とも、スペイン語と英語でしゃべっています(笑)バイリンガル、トリリンガルであることは本当に、本当に大切なことです。皆さんは私が同い年だった時よりも洗練された英語をしゃべっています。自信を持ってくださいね。

(磯)ドメナック先生、プログラミングについて話していただけますか。

(ド)プログラミングを覚えるというのは、本質的には言語学習と同じです。それも、会話相手(PC)がいつだって話を聞いてくれる。人間相手に練習するよりもハードルが低いので、気楽に楽しく学習することができます。
ただ、文法が厳格というのが話し言葉とは違うところですね。少しでも文法を間違えると、口を聞いてくれませんので…

テクノロジーと社会学の交差点で

(ド)私も皆さんにひとつ質問があります。皆さんはどんなテクノロジーに興味がありますか?または、どんなテクノロジーに不安を覚えますか?

(学生)SNSにおけるフィルターバブルやエコーチェンバー現象に興味があります。自分と同質の意見を持った人としかつながらなくなれば、議論ができず、意見の対立が分断を引き起こしてしまうことに不安を覚えています。

(ク)ぜひメディアリテラシーの授業をとってください!まさにそういったテーマで考察を深めます。

参加している学生の写真

(ド)我々人間は普段は他者と会って話すことで何かを決めます。一方的な発信と違って、「話す」ということは、お互いに学びあうということなのです。

(磯)それでは、最後にひとことお願いします。

(ド)他人と比較して自分の価値を決めないでくださいね。あなたたちはみんな、本当に素晴らしいのです!

(ク)本当にそのとおりです!GCの授業でお会いできるのを楽しみにしています。

取材後記

GCの領域は私が入学した後にできたコースなので、あまりよくわかっておらず、なんとなく難しそうだと思っていました。しかし、クズネツォワ先生の「苦手なことは『まだ』できないだけ。」という考え方や、ドメナック先生の「プログラミングは言語学習だ。いつでも会話をする相手(機械)がいる」という言葉を聞いて、とても興味が湧きました。

そしてなによりも、お二人の人柄が魅力的でした。話を聞いている学生との距離が近く、惹きこまれた学生も多かったと思います!せっかくリベラルアーツを学ぶことができるAIUにいるのなら、こうした分野に足を踏み入れてみるのも良いなと思いました。(私は来年の3月に卒業してしまうのが悲しいです…)

(取材:赤羽 柚美)

写真はすべて星野 慧さん撮影