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AIU Chat Night~教職員と語ろう~ 第7夜(モンテ・カセム学長、熊谷 嘉隆副学長)

互いの顔が見える関係 - 1学年の入学定員が175名と小規模であることは、国際教養大学の良さのひとつです。コロナ前は学生の89%がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活し、留学生も交えて多文化共生の空間を形成していました。現在は1年次(2021年度入学)の学生全員と希望する上級生全員が学内で生活しており、キャンパス内での活動も段々と拡がっています。今回はキャンパスに住む学生である赤羽 柚美さん(3年次・取材)と星野 慧さん(2年次・写真撮影)に学内で開催されたイベントをレポートしてもらいました。

コミュニティとしてのAIUを体感する「場」として企画されたシリーズ「AIU Chat Night~教職員と語ろう~」(全7回)。最終回の第7夜は発起人の磯貝副学長をホストに、モンテ・カセム学長熊谷 嘉隆副学長が、学生と語らいました。

円形に椅子を並べて語り合う参加者たちの会場写真

(磯)学長は立命館アジア太平洋大学の学長などを歴任してきました。AIUの学長として着任してまもない昨年6月に、昼食のお弁当を取りに来る学生(※)に声をかけ「皆、良い学生たちだね。」と私に語ってくださったことが印象的でした。
※当時は感染症対策の一環で、学内居住の学生は、食堂ではなく自室で食事をとっていました

(モ)はい。これまで(理事としてAIUの運営に関わっているときに)は学生と触れ合うことはあまりありませんでしたが、直接会って話すことで、学生たちの雰囲気を肌で感じられることはいつも大きな喜びです。

(磯)熊谷副学長は私と同様に、2004年に大学ができた当初からAIUにいらっしゃいますが、これまでを振り返っていかがですか。

(熊)無我夢中で走ってきた18年でした。2003年の8月に教員の顔合わせがあったのですが、当時は今の図書館も、D棟(講義棟)もありませんでした。(私が当時所属していた米国の)ワシントン州立大学の学部ひとつより小さい規模です。しかし、集まった人々は「これから日本の大学を変えていくんだ」という強い思いを抱いていました

そして、開学当初にあえて入学してくる学生も開拓者精神にあふれていてワイルドな人が多かったように思います。幸い今は知名度もそれなりに上がり、偏差値の高さからは優秀な志願者が多いことが見えてきますが、AIUとして変わってはいけないのは挑戦する精神だと思います。どんなに評判がよくなっても、逆に危機が訪れても、それだけは守り続けたいですね。
学生には自分たちがAIUのヒストリーを作っていくんだという気概や責任感を持ってほしいです。私たちも、そういう気持ちで頑張っています!

マイクを片手に学生に語りかける熊谷副学長の写真

熊谷 嘉隆副学長

いい子ぶった組織になってほしくない

(磯)開学当初の「挑戦」で象徴的なのがAIU竿燈会ですよね。AIU卒業生でもある工藤先生に来ていただいたChat Nightでも話題になりましたが、AIU竿燈会は開学当初からあったわけではありません。最初は(竿燈を上げる技を披露する)演技が下手で、(竿燈が倒れて)観客から悲鳴があがるような有り様。でも地元の商工会の人に教えていただきながら頑張っていました。そういう挑戦のスピリットが、今のAIU竿燈会の礎にあったのです。

(モ)私は、AIUにいい子ぶった組織になってほしくない。やんちゃさを持っていてほしいのです。それは、誰も思いつかないようなことを考えるような精神のことです。自分も学生時代にはたくさんやんちゃなことをしてきました。学業はもちろん、それ以外のことを全力で頑張るのも大学に来ている意味だと思います。

マイクを片手に学生に語りかけるカセム学長の写真

モンテ・カセム学長

(磯)この大学には、既成の娯楽がない。そういう意味では、学生には「自分たちで娯楽を創り出す楽しさ」を知ってもらいたいです。熊谷先生のやんちゃな経験もお聞きしたいです(笑)

(熊)AIUの教員紹介企画でも取り上げてもらったのですが、私はたくさんの挫折を経験してきました。日本の大学は中退しましたし、弁護士になろうと思って勉強しても興味を失ってしまい、山小屋に就職しました。その時は登山家になりたいと思ってヒマラヤに行って登山したのですが、登頂してしまうと満足してしまい、登山家になるのはもうよくなってしまったのです。
その後メーカーに就職したのですが、自分の一生をこの会社に捧げるのだろうかと考えたときに違うなと思ったのです。そこから、NHKのラジオ英会話等で英語を勉強して、29歳でアメリカの大学の森林学部に入りました。死に物狂いで勉強したのです。私が自分の人生の目標を見つけたのは27歳です。でも、それまでに積み上げた経験は無駄ではありませんでした
若いうちに目標を持つことは大事です。でも、目標とは関係のない「寄り道」にも、全部意味があることを今になってしみじみ感じます。私は、しんどい経験をしながら、心も体も傷つきながらも、心が折れそうになるたびに自分を鼓舞してきました。それはとても大切なことでした。

Q&Aタイム

(磯)今日はQ&Aの時間を多く取りましょう。

おすすめの山域

(学生)私も熊谷先生と同じで山登りが好きです。東北でおすすめの山はありますか?

(熊)まずおすすめできるのは鳥海山ですね。そして、青森側からの白神山地も素晴らしいと聞きます。世界遺産を遠目からではなくて、中から体感するのは、人間が自然に生かされているのを感じることができると思います。ただ、沢登りの技術がないといけないので、トレーニングしてから行くことになります。

(モ)東北の山は生態系がとてもユニークです。白神山地は、太古の森。雰囲気に触れるだけでも面白いですよ。

学長たちの話に耳を傾ける学生たちの写真

周りがクレイジーなことをやっているところに身を置いてみる

(学生)先ほどやんちゃになるということの大切さについて話していただきましたが、やはり私にはハードルが高いです。なにかアドバイスはありますか?

(熊)一般論で言ったら面白くないので、自分の経験から答えようと思います。私が大切だと思うのは「恥ずかしい、忙しい」という感情を取っ払うことですかね。一歩踏み出す人と、そうじゃない人との違いは紙一重です。しかし、一歩踏み出した人は何かをつかみます。その味をしめて何度でも挑戦するようになるのです。大きな挑戦や冒険じゃなくてもとりあえずやってみることが、大事です。

(モ)そうですね、なかなか答えらしいことは言えないけれど、答えようと思います。まず、他人に迷惑をかけないことであれば、何をしてもよいと思うのです。そういう挑戦は自分の成長になります
私は16歳の時に、ありきたりの生き方を破ってみたいと感じていました。誰でも想像できるような道ではなく、「自分」を守りながらも境界線をちょっとだけ破ってみたい、という気持ちがあったことを覚えています。

(熊)あとは、自分が一歩を踏み出すためにも、やんちゃというか、挑戦というか、そういうことをしている人と友だちになるのも一つの手ですね。真面目なだけの集団にいたら、人と違うことをしたら自分は目立ってしまうのではないかと思って一歩を踏み出す勇気がなかなか出ないかもしれません。
でも、それでは本当にすごいことはできません。
素晴らしいアイデアは、優秀なだけの人間からは出てこないのです。だから、「いい子」のグループにとどまる必要はありません。周りがクレイジーなことをやっているところに身を置く。積極的にそういう人と付き合うことで(自分自身も)インフルエンサーになって行くのだと思います。

(磯)面白い考え方ですね!AIUにも「そんな人生あり?!」「あんな考え方があるんだ!」というユニークな人に入学してもらいたいのです。そのために多くの入試制度を用意しているんですよ。

ストーブの傍らで語り合う学長と学生たちの写真

オンとオフをはっきりさせる

(学生)熊谷先生の「死に物狂いで勉強した」という言葉が印象的でした。先日、学長と廣津留すみれ先生との対談・演奏会で、廣津留先生が、やりたいことをやるためにスケジュールを立てることの大切さをお話しされていたと思うのですが、私は優先順位を決めても、守れないことがあります。なにかアドバイスはありますか?

(熊)実は、私も計画を立てて行動できるようになったのはここ数年のことです。
今は副学長として、自分たちが決めたこと全てが大学の方針に反映されます。膨大な案件に対して可能な限り情報を集め、総合的かつ迅速に判断する必要があるので時間のロスは許されません。
ひとつ言えるのは「これは○○分で終わらせる」という目標を決めると、効率が良くなると思います。オンとオフをはっきりさせるのです。40分集中したら5分は休むとか。スウェーデンの大学にいる知り合いのほとんどは、確実に17時に家に帰っていました。働いている時間は短いですが、教育・研究のアウトプットの質・量はすごい。すごく効率が良いのです。また、何かに取り組むとき、個人とグループ作業を絶妙に組み合わせるため無駄がないのです。短時間で物事を達成することで、集中力を保つことができます。
欧米の研究者は総じて、オンとオフを上手に活用していると思います。家族で過ごす時間やボランティアをするための時間を大切にするためです。それを、誰かのために時間を犠牲にするという考え方ではなく「自分の水平線を広げる時間」と捉えています。アメリカで、なぜボランティアをするのかたくさんの人に尋ねましたが「自分は地域に生かされているから、貢献するのは当たり前。何をするのも自分のためになる」と答える人ばかりでした。

(モ)休むことが大切ということをお伝えしたいです。疲れたら、寝てください。忙しく働かなくても良いのです。そういう時代です。脳に詰め込む時間と、脳を遊ばせる時間どちらも大切です。

学長たちの話に耳を傾ける学生たちの写真(別カット)

時間がなくてできないことは、やる時間を習慣化する

(学生)読書との向き合い方をお伺いしたいです。本を読みたいのですが、時間がありません。課題とのバランスが難しいです。また、読みたい本がたくさんあってどれから読めばよいか迷ってしまいます。

(熊)私はいろんな分野の本を読みます。自分の研究に結びつく本は「戦闘モード」で読むのですが、そうではない軽い本や小説とかは休日や寝る前に読みます。そういう本は、読書をすることに対して構えないのです。
そして、どんな本を読んでも、読書感想文を書いています。音声メモで自分の感想を記録することもあります。それを続けると、非常に多くの量になりますね。それを暇なときに見返すと、自分は何を考えていて、これから何をすればよいのか考えるきっかけになります。本のない人生は味気ないと思いますし、本を読むことでこそ人間としての深みが出ると思うのです。忙しい時でも、読書をする時間は大事にしています。

(モ)私は読書を、文字を読みながら場面を想像する訓練だと思っています。そして、やりたくても時間がなくてできないことは、やる時間を習慣化することが大切だと思います。私が大学院の時に、忙しくて何をどうしたら良いか分からなくなった時がありました。そんな時に、担当の教授に宣言してみました。「朝起きて、コーヒーを飲んで朝飯を食べる前に論文を3つ読む。寝る前に3つ読む。土曜日と日曜日にはそれを休みます。」と。それが1977年のことです。以降44年間、ずっとやり続けています。今はそれがすごく役に立っていますね。
時間をどう作るか考えるのは大切です。無理のない範囲で継続できる方法を考えてみてください。

学生たちに語りかける磯貝副学長の写真

磯貝 健副学長

(磯)ありがとうございました。この企画は今日が最終回ですが、たくさんの先生と学生とが膝を突き合わせて語り合うのを見てきました。
ご存知のとおりこのキャンパスには、何もありません。何もないのに「こんなに楽しいところはない!」といって先輩たちは卒業していきました。そして、それを「捨て身で支えます!」という教職員がたくさんいます。AIU Spiritというのは、なかなか言葉で表現できるものではないけれど、どこかで時を超えて通じるものがあると思います。
本当にありがとうございました。

取材後記

AIU Night Chatもついに最終回を迎えました。

今回の対談では学長、副学長が「やんちゃ」に生きてきたということにとても驚きました。「人と違うことを恐れず、自分の思うままに生きる。」そうした生き方に憧れを持つ人も多いかもしれませんが、現実はなかなか難しいと思います。そんな中で、熊谷副学長の「周りがクレイジーなことをやっているところに身を置くこと」でやんちゃになれるというお話や、磯貝先生の「AIUも様々な入試制度でそうした人材を入れようとしている」というお話を聞いて、自分が高校生の時に抱いたAIUへの憧れの気持ちがよみがえってきました。

私は、AIUの入試問題がとても好きです。英語の能力や知識があるだけでは突破できず、自分の頭で考える力を見られていると感じたからです。出題される文章そのものが本当に面白く、問題を解き終わってもずっと頭の中に残る文章なのです。その時、こうした問題を楽しんで解いている仲間と共に勉強したいと強く感じたのです。それは、今考えててみると、誰も思いつかないような新しい一歩を踏み出してみたいという思いだったのかもしれません。

私は思い描いていたようなキャンパスライフを送ることができませんでした。留学に行けなかったこと、授業がオンラインになってしまったこと、多くの同期に会えずに卒業してしまうことなど、挙げればきりがないほどたくさん辛いことがありました。自分ではどうにもならない理由でやりたいことができなかったことは、悲しく思います。正直、私たちの代のようにキャンパスに戻らないままになってしまった学生がどれだけAIU Spiritを体感できたかどうかはわかりません。

この取材活動は、イベントに参加できなかった1年生はもちろん、入学が決まったすぐ後に自宅から授業を受けていた17期の学生、キャンパスに居住していない同期や先輩方のために行いました。オンラインの授業では教授との交流にも限界があります。どんな教授がいるのか、どんな思いで授業をしているのか、この記事を通じて知ってほしいと強く思います。そして、今一度、なぜ自分はAIUにきたのかという原点を思い出してほしいと思ったのです。

取材をする中で新しく入学してくれた1年生の希望に満ち溢れた目や、教授たちがそれにまっすぐ応えようとしている姿勢を見て、AIU Spiritが未来に続いていく瞬間に立ち会えた気がしました。きっと、これからもずっとその精神は受け継がれていくのでしょう。

卒業を目前に改めてAIUとAIU生を好きだと思えたことは、私のこれからの人生の自信になると思います。素敵な企画に携わることができて光栄です。本当にありがとうございました。

(取材:赤羽 柚美)

取材・レポートした赤羽さんの写真

写真はすべて星野 慧さん撮影