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本学学生が「秋田県若者チャレンジ」支援事業に採択
本学在学中の大矢 玲菜(おおや れな、2023年入学)さんが取り組む「ライドシェア事業」が、2023年度「秋田県若者チャレンジ応援事業(以下、「若チャレ」)」の特例枠※に採択されました。若チャレは、秋田県が主催するビジネスコンテストで、地域活性化に貢献できる事業アイデアの実現を通じて若者の起業を支援しており、採択者はスキルアップや起業準備に必要な経費助成、専門家によるメンタリングなど充実したサポートが受けられます。2022年度若チャレでも、本学の稲川 拓実(いなかわ たくみ、2019年入学)さんの取り組みが採択されました。
※特例枠:AI・IoTなど先進技術を活用した取組や、注目度が高く公益性が高い取組など、選考委員会が特に認める場合は、補助率10分の10、補助限度額は400万円(単年度の限度額は300万円)
今回は、大矢さんがこのプロジェクトに参加したきっかけや活動内容についてお話を聞きました。
「思い描けないような人生を描きたいならばAIUへ行きなさい」という恩師の言葉
大矢:私は愛知県の公立高校から国際教養大学に進学しました。当時、興味があったのは経済学、中でも日本経済についてでしたが、高校1年の時、インディアナ州への派遣研修でアメリカを訪問する機会がありました。そこで、地方都市の可能性を体感すると同時に、海外を通して日本をより客観的に理解できると気がつき、経済学を深めるには日本経済だけでなく国際経済を学ぶ必要があると考えるようになりました。進学先については、直前まで迷いがありましたが、浪人時代に塾の先生から、「思い描けないような人生を描きたいならばAIUに行きなさい」と言われたことが進学の決め手でした。
生活の中で目の当たりにした課題
大矢:入学当初は、交通の便の悪さに衝撃を受けました。私の地元である名古屋市の市街地では、地下鉄やバスなど公共交通網が整備されていて、秋田に来るまではそれが当たり前の環境でした。AIUの立地や交通事情は入学前から文字情報としては理解していたものの、実際に体感した公共交通機関の便数の少なさや天候不順によるダイヤ変更などに地域格差を強く感じました。特に昨年は、秋田市の大雨で電車もバスも不通となったり、大学の最寄り駅までのバスの廃線が決まるなど、自分の生活と直接関わる課題に直面する出来事が沢山あり、その解決策を自ら模索し始めました。
AIU生として秋田をもっと知りたい、地元の方々ともっと関わりたいという思いがあるのにもかかわらず、交通の便が障壁になり、学生の活動が制限されてしまっていることに強い問題意識を感じました。1年次は先輩とのつながりもそれほどなく、それに加え自身も運転免許を取得していなかったため、公共交通機関を利用する以外の移動手段がありませんでした。また、ただでさえ忙しい学生生活の中、電車やバスの出発時刻を待つ時間も苦痛でした。ちょっとした買い物に行きたくても、時刻表から逆算してスケジュールを立てなければなりません。出掛けた先から大学に戻る最終バスを逃した時には、見知らぬAIU生に相乗りを頼むか、熊が出るかもしれない夜道を歩くしかない状況に直面し、問題の深刻さを痛感しました。学生生活で満足するためにもどうしても解決したいと、同じような思いを持つクラスメイトと意気投合し、問題解決と同時に事業にならないか、と考え始めました。
若チャレ応募のきっかけ
大矢:2023年5月に、新規事業を立ち上げる起業体験・コンテスト「Startup Weekend 秋田(第3回)」に参加しました。このイベントは、事業のアイデアをどのように実現するかを、現役実業家などからアドバイスをもらいながら、3日間でプレゼンテーションにまとめる模擬起業コンテストです。私は「with U 〜ライドシェアサービス」というグループ名で、クラスメイト2名と参加し、当時練っていたライドシェア事業を提案したところ、優勝することができました。イベントを通じて経験豊富な社会人にアイデアを相談していく中で、事業化はできるかわからないが小さいことからならば取り組めそうだ、という感覚が芽生えました。
その後、2023年7月に秋田の起業家の方に相談したところ、若チャレの存在を教えていただきました。前年もAIU生で採択された方がいること、また、対象事業が、若者ならではのアイデアを活かした戦略的な取り組みで地域活性化させるものとあり、秋田県内で社会問題解決をしたいという私たちの思いと重なると思い、応募しました。
若チャレの応募プロセス
大矢:若チャレで応募した事業テーマは「交通改善を目的とした乗合マッチングサービス」としました。我々が考えていた乗合マッチングに対して、この応援事業の特例枠の条件が、公共性の高い事業・IT系だったので、特例枠で申請出来たことも良かったです。
一次審査では、解決したい課題、事業内容、なぜ今なのかなどの5つの審査項目がありました。その回答としてチームでは「誰も提案しないが事業として取り組む魅力があるか」「私たちの案が選択肢として最適解であるか」などを時間をかけて話し合いました。ライドシェアは新しい概念ではないので、どうやって提案の新規性と実現可能性を証明できるか、なぜ、今、自分たちが行わなければならないのかなど、様々な方にアドバイスをいただきながら、締め切りの直前まで応募書類の推敲を続けました。
一次審査を通過すると、メンターとして、中小企業診断士の方をご紹介いただき、何度もアドバイスしていただきました。企画書を最初から作り、「サービスの内容」「ビジネスモデル」「事業内容に含めるものと含めないものの整理(プロジェクトスコープ)」、などを一つずつ決めていきました。交通弱者としてのメッセージ性をどう強化するか、社会に納得してもらうためにはどうするか、時に涙目になりながら何度も何度もブラッシュアップを重ね、検討しました。
AIUで鍛えたプレゼンテーション力
大矢:無事に二次審査を通過し、2023年12月にプレゼンテーションによる最終審査がありました。持ち時間は7分。最終審査には想定以上の候補者が残っていました。
プレゼンテーションの準備では、問題提起、ストーリー展開、事業概要の説明について何度も見直しました。資料として、照明の暗い夜道の写真や熊の警戒メール、私が実際利用している公共交通機関の時刻表などを用意し、審査員に現状を理解し関心を持ってもらえるように努めました。また、比較対象として他に考えられる解決策や他の地域の事例などを挙げた上で、私たちが提案する学内の乗合マッチングサービスの方が実現・持続可能であることを説得する内容にしました。
質疑応答では、審査員からいくつかの質問がありましたが、想定外の内容はありませんでした。これは、準備段階でメンターの方などにご協力頂き、何度もリハーサルを繰り返し、想定しうる質問をあらゆる角度から準備できたおかげです。
また、AIUで身についたスキルの一つに、プレゼンテーション能力があると思います。毎日のようにグループワークやプレゼンテーションを行う中で、クラスメイトと協力し入念に事前準備をする重要性や、人前での説得力のある話し方を学ぶことができました。そして、目指していた特別枠での採択が決定しました。
事業化までのいくつかの難関
大矢:私たちの事業は、まずAIUのキャンパス内で乗合マッチングサービスを実用化・収益化することを目指しています。ビジネスコンテストなので、ビジネスとして成立しなくてはいけませんが、特に収益化できる構造を作ることに苦戦しました。私たちが取り組んでいる輸送分野は法規制が厳しく、関係法規に抵触する可能性があるため、法的規制をクリアしながら事業化・収益化の仕組みをつくることが必要でした。何度も法務局にお伺いし調査を重ねることで、5年間の収支計画で黒字化を見据えた事業計画を立てることができました。
大矢:昨年からは法人としての登記を計画していましたが、法人申請など初めてのことばかりで、想定以上の時間がかかっています。アプリケーションの開発に関しては、2024年1月に委託先を決定することができました。ライドシェアに関連する法律は毎月のように更新されているため、事業が法令遵守の上で運用されるよう、常に法規を照会し事業内容に照らし合わせ検討する必要があります。そのため、チームの中で法務部を設置し今もなお気をつけています。また、現在国土交通省・秋田運輸局とも連絡が取れるようにしていただき、20名以上の体制でシステム開発と事業の立ち上げに取り組んでいます。
団体としては部署ごとに毎週ミーティングを行って進捗状況を確認しています。現在のコアメンバーは5名ですが、工程の線引きが得意な学生、文書作成が得意な学生など、それぞれの得意分野を持ち寄ってプロジェクトが進んでいます。
人との縁の広がり
大矢:私たちのチームはたくさんの方々に助けられて成長してきました。特に秋田県から若チャレに特例枠で採択をされてからは、多種多様な社会人の方々と繋がることができました。
その中で、2024年2月には東京で菅 義偉元 総理大臣と面会し、アドバイスをいただく機会がありました。当時、私たちは法規制と事業の方向性について議論しており、抵触する恐れのある法規について市町村と連携し特例法案を発議・成立させる協力を得るか、現行法の中で運用する事業案を模索するかを悩んでいました。この悩みについて菅 元総理大臣から助言をいただき、地方自治体が主体としてタクシー会社と連携することにより、現行法の中で事業を行う方向を検討するきっかけになりました。
持続可能な事業を目指して
大矢:事業を持続可能な形で維持することが今後の課題です。私たちのチームは2024年4月に「Rideon」という名前でAIUの公認団体として認定されました。今の開発部長は2024年春セメスター後に留学、私も2025年の春には留学に行く予定です。大学にプロジェクトをどう残すか、どう引き継いでいくか。ビジネスの持続可能性を残していくことを模索しています。ランニングコスト、アプリのマネジメントとマネタイズなど、懸念点はまだまだ多いですが、2025年1月の公式アプリのリリースを目指し、テスト版が出来次第、すぐに実証実験をスタートしたいと思っています。
チームメンバーは誰でもいつでも募集しています。私も来年の春からはヨーロッパのビジネススクールで経済学をしっかりと学びたいと思っています。学問を生活に落とし込み、実践的な学びを深め、社会課題解決の糸口を掴んでいきたいです。