English

AIU TOPICS

私の留学レポート:タイ・タマサート大学~松藤彩乃さん(2)~

国際教養大学では1年間の留学が必須となっています。語学留学ではありません。専門科目を現地の学生とともに履修し、本学での卒業単位の一部として認められる必要がある、「本気」の留学。学生が、それぞれ深めたい学問分野に応じて200以上ある海外提携大学の中から選択します。良いことばかりじゃない、ときには苦しいことや辛いこともあるのがAIUの「本気」の留学です。ここでは、そんな学生一人ひとりのストーリーを自身の言葉でレポートしてもらいます。

今回は、タイに留学中の松藤彩乃さんのレポート第2弾をご紹介します。

政治学部ならではの学び

留学一学期目に履修した授業の中で、特に印象に残っているのが公共政策学の授業です。この授業では、社会問題に対して政府や制度がどのように関わり、政策がどのように設計・実施・評価されていくのかを理論的に学びました。私はもともと、移民労働者やCSR(企業の社会的責任)といったテーマに関心を持っていましたが、この授業を通じて、それらが個別の問題ではなく、公共政策という大きな枠組みの中で捉えられることを知りました。一学期目は政策サイクル論やステークホルダー分析など理論中心の内容で社会問題を構造的に考える視点が身についたと感じてます。二学期目には、公共政策学をベースにしながら、経済学的なアプローチを重視した授業を履修しています。市場メカニズムやインセンティブ、コストと便益の考え方を通じて、政策が企業行動や労働市場にどのような影響を与えるのかについて学んでいきます。理論から始まり、経済学を通じて現実に近づいていく学びの流れは、政治学部ならではだと思っています。

支援は当事者のためになるのか、答えの出ない問い

留学生活も折り返しに差し掛かり、当初掲げていた「現地の人々の視点からタイ社会を理解する」という目標に対して、少しずつではありますが具体的な進捗があると感じています。教室内での学びに加え、実際の社会に触れる機会を意識的に増やすようにしました。移民労働者が多く暮らす地域を訪れたり、労働支援や社会問題に関する報告会に参加したりする中で、制度設計と現実との間にある大きな乖離を改めて実感しました。特に印象的だったのは、以前訪れたKhlong Toeiというスラム街で感じた違和感が、時間を経て別の形で理解できるようになったことです。最初は「貧困」や「支援」という言葉で一括りにしていたものが、現在では、そこに暮らす人々の選択、価値観、そして制度の限界という複雑な要素の重なりとして捉えられるようになりました。これは、授業で学んだ公共政策の理論と、実際の社会経験を往復する中で得られた変化だと感じています。

スタディーツアーに参加した際に訪れたオンヌット周辺のスラム街

こうした経験を重ねる中で、私の中には新たな疑問も生まれています。それは、「彼らにとっての幸せとは何なのか」「支援とは本当に当事者のためのものなのか」という問いです。外部から見た貧困や不便さは、必ずしも本人たちの不幸と一致するとは限りません。一方で、明らかに改善が必要な生活環境や構造的な格差が存在することも事実です。その中で、支援を行う側の行為が、無意識のうちに支援する側の自己満足になっていないか、また「支援する側/される側」という一方的な立場に自分自身を置いていないかを考えるようになりました。誰の視点で問題を定義し、誰の価値観で「より良い状態」を描いているのか。その問いは、公共政策や国際協力を学ぶ上で避けて通れないものだと感じています。

現在の私は、これらの問いに明確な答えを持っているわけではありません。しかし、留学を通して現場に足を運び、人々の生活に触れたからこそ、安易に結論を出すことなく考え続ける姿勢の重要性に気づくことができました。この「答えの出ない問い」と向き合い続けること自体が、今の私にとって留学の大きな成果の一つであると考えています。

様々な「顔」を持つ国、タイ

学期の休暇期間中には、バンコクを離れ、バスや電車を利用してタイの地方部を訪れました。都市部であるバンコクと比べ、地方ではインフラや経済発展の度合いに大きな差があることに驚かされました。

タイの国鉄に乗ってタイの地方へ

ローカルなタイ料理屋さんへ (写真左が松藤さん)
国内最大規模のクメール遺跡が残る町ピマーイの遺跡

一方で、初めて訪れる場所であっても、現地の人々が笑顔で声をかけてくれたり、困っていると自然に手を差し伸べてくれたりと、人の温かさを強く感じる場面が多かったです。また、簡単なタイ語を使って食事を注文したり、短い会話を交わしたりできたことは、自分にとって大きな喜びです。さらに、休暇中には近隣国であるベトナムも訪れました。同じ東南アジアの国でありながら、街の雰囲気や人々の生活、歴史の見え方が大きく異なり「東南アジア」という一つの枠組みでは語れない多様性があることに気づかされました。タイでの生活、そしてベトナムでの滞在を通して、タイという国が持つ多様な側面を改めて実感し、いろいろな「顔」を持つ国であることに強く驚かされました。

国際センターから一言

第1回のレポートと同様に、机上で理論を学ぶのみではなく、関係する場所に足を運び、自分の目で見て考えるという松藤さんのしっかりとした目的意識と行動力が伝わる素敵なレポートですね。「答えの出ない問い」に対する継続的な取り組みは、留学中のみならず、帰国後も続くことと思います。留学中の経験や学びを通して、松藤さんにとっての最適な結論に辿り着けることを応援しております。