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AIU Chat Night~教職員と語ろう~ 第1夜(磯貝副学長、工藤准教授)

互いの顔が見える関係 - 1学年の入学定員が175名と小規模であることは、国際教養大学の良さのひとつです。コロナ前は学生の89%がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活し、留学生も交えて多文化共生の空間を形成していました。現在は1年次(2021年度入学)の学生全員と希望する上級生全員が学内で生活しており、キャンパス内での活動も段々と拡がっています。今回はキャンパスに住む学生である赤羽 柚美さん(3年次・取材)と星野 慧さん(2年次・写真撮影)に学内で開催されたイベントを取材してもらいました。

オンラインでのコミュニケーションが主流となった今、学生同士の、そして学生と教職員との顔の見える対話を再び活性化していこうと、磯貝 健 常務理事・副学長の呼びかけで、1年次の学生を対象としたシリーズ企画「AIU Chat Night~教職員と語ろう~」(全7回)が始まりました。第1夜となる10月14日(木)は、発起人の磯貝副学長と、卒業生であり現在は本学グローバル・スタディズ領域で教鞭を執る工藤 尚悟 准教授(サステナビリティ学)が、学生と語らいました。工藤准教授は中学校〜高校をホームスクーリングで勉強し、大学入学入学資格検定(大検、現:高等学校卒業程度認定)を経て本学に入学したという異色の経歴の持ち主です。

なにもないところから、新しいものを創る

(磯)閉校となったミネソタ州立大学秋田校の跡地にAIUが開学したのが2004年。当初、ここは引き継いだ建物以外はなにもないところでした。路線バスも通らず、認知度も低く、いたのは1期生150名ほどと、教職員のみ。自然と互いの距離は近くなり、「一緒に大学を盛り上げていこう」という開拓者精神が醸成され、いまに受け継がれています。

マイクを片手に学生に語りかける磯貝副学長

(磯)たくさんの学生との出会いがありました。我々の気持ちを例えるなら、自転車の補助輪を外したばかりの子の後ろ姿を見守る親心。しかし、どうやったら転ばないのか、転ぶのか、どう転べば平気なのか。それは自分でしか学べないことです。それが、「AIU生として生きる」ということとも言えます。そんなAIU生のひとり、今の学生たちにとっては先輩であり、先生でもある工藤准教授にお越しいただきました。

大学に吹く「学問の風」

(工)私は秋田県能代市出身のAIU 2期生です。中学校〜高校にかけての時間を、家を中心に学習するホームスクーリングをして過ごしました。ホームセンターでアルバイトをはじめ、当時の最低賃金635円で働いていました。17歳で大検を取得した後に、親には大学への進学を勧められましたが、興味が持てませんでした。それでもこのまま一生アルバイトとして生きていくのはつまらないと思い、どこかまったく知らない遠いところに生きたいと思うようになりました。そうして、19歳の時にニュージーランドへ10カ月の留学に行きました。

マイクを片手に学生に語りかける工藤准教授

(工)ニュージーランドでは日本人観光客を相手にするツアーガイドがたくさんいて、そういう人たちの仕事を見ていた私は、帰国後は専門学校に行ってツアーガイドになろうと思うようになりました。そのことを両親に相談したところ、思いがけず母に猛反対されました。両親は「大学を出ないと就職が厳しい」など色々な理由を話してくれましたが、私の心にはまったく響きませんでした。そうして1カ月ほどやりとりをしたのち、母が言ったある言葉に説得されました。その時の母の言葉は今もよく覚えています。

大学という場所は、どんな地方の小さな大学でも、それぞれ専門分野を持っている先生がいて、それを学びたいと思っている学生がいる。彼らはそれぞれの分野の本を持っていて、大学のなかのあちこちで、それらの本を読んでいる。
彼らがそうして本を1ページごとめくるたびに、ふわっと小さな風が起こる。その小さな風は、やがて束になって大きな「学問の風」になる。あなたには大学に行ってそれを感じてきて欲しい。

自分は世間体とか就職とか気にならなかったので、それまでの両親のどんな言葉にも説得されませんでしたが、この言葉を聞いたときには、「そうか、大学には風が吹いているのか。ならば行って見てこようか。」と思いました。

AIUには強風が吹いていた

(工)結論から言うと、AIUには強風が吹いていて、飛ばされないようにしないと死んじゃうくらいでした(笑)課題はたくさん出されますし、図書館は24時間空いてるから休む暇がありません。
留学は、韓国の高麗大学に行きました。日本から海外に留学するというと、何となく欧米・英語圏の国というイメージがあると思います。自分もそうでした。ただ、行ってみて分かったことですが、英語圏でない場所に行くことで自分の中に世界を理解するときの第三軸ができました。日本、欧米(教授陣も欧米で学んだ人が多いので、考え方が欧米寄りの印象があります)、そしてもう一つ。そうすることで、自分と他の軸との距離が分かって、世界が立体的に見えるようになります。だから皆さんにも、ぜひ留学先として英語圏でない場所も選択肢に入れてもらいたいです。

椅子に座り、足を伸ばしたリラックスした姿勢で学生に語りかける工藤准教授

Q&Aタイム

学部での学びが、次につながる

(磯)東京大学の大学院に進学した、初めてのAIU生。修士、博士と進み、いずれでも研究科長賞をとった(=成績トップ!)と聞いています。どうしてそんなことができたのですか?

(工)AIUのEAP(英語集中プログラム)で学術英語、特に書く力を徹底的に鍛えられたことがとても役立ちました。論文の組み立て方や、参考文献の参照の仕方は、学部時代に身についていました。
もうひとつが、熱量です。進学した大学院プログラム(サステイナビリティ学教育プログラム)は9割が留学生で、多くが国費留学生でした。自分の国が抱える課題に対して自分がなんとかしなければ解決していかないという強い使命感を持った人たちばかり。そういう環境にいると、自分も自分自身が取り組むことが最も意味があることに取り組まなければならないと感じるようになります。それが何かを考えてみると、自分にとっては秋田の抱える課題に取り組むことがいちばん意味があると感じました。

燃え尽きることはある。でも、大丈夫。

(参加学生)ギャップイヤーで入学しました。高校生の時は寝る間も惜しんで勉強したのですが、ギャップイヤーの自主課題をやりすぎて燃え尽きてしまった感があります。先生が燃え尽きずにできたのは、なぜですか?

(工)燃え尽きることはあります。でも、AIUの後輩たちなら、何の心配もないです。
人には誰しも強みがあって、それをやっていると疲れないというものが、絶対にあるはずです。燃え尽きてしまうということは、もしかするとそのテーマが自分に合っていなかったのかもしれません。AIU生としての時間は4年間ありますから、ゆっくり自分の強みが発揮できるものを探してみて下さい。

質問する学生の姿

コミュニティに入り込んで初めて見えるものもある

(参加学生)埼玉から来ました。(高校で)留学に行って英語を覚えましたが、逆に日本について何も知らないと感じました。秋田で、日本について知りたいと思っています。秋田のために何かしたいと思っていますが、自分のエゴかもしれないと思うときもあります。先生はどう思っていますか?

(工)とても大事なテーマです。自分もよく考えます。「私は対象にたいしてどこ(どういう立場)にいるのか」ということを考えてみるとよいと思います。
ある対象を外から見て客観的に観察して分析するというのは、デカルトをベースとした西欧近代科学の方法論です。これのおかげで、産業革命がおき近代化が進みました。一方で、もうひとつの対象との関わり方は、外から観察・分析するのではなく、対象のなかに「暮らす」という文化人類学的なアプローチです(時間がかかるけど)。コミュニティに「暮らす」ということで言えば、例えばAIUには竿燈会がありますので、地元の人が楽しんでいるものを一緒に楽しむという方法があります。自分も2年生のときに1時間かけて青年会の方々の練習場に行って、竿燈を学びました。

会場全体の写真。磯貝副学長と工藤准教授がそれぞれパーテションで区切られていて、学生たちと向かい合っている様子。

それこそが、学問の強風

(参加学生)課題が大変です。やりたいことは色々あるし、本も読みたいけれど、課題が多い。どういうことをして気を紛らわせていましたか。

(工)これは、ぜひ強風に耐えてください(笑)大事なことは、そう感じているのはあなただけじゃないということで、みんなで強風に耐えて。サークルもありますし、22時以降にならないと図書館にいかない学生もいます(自分もそうだった)。
そして教員と学生、事務局の距離が近いのはAIUの大きなメリットです。自分の場合は、授業で気になったことは、あとからじっくり考えて、先生に長文の質問メールを送っていました。授業の中でわからないことをメールで書いて、送って、返信してくれるというのは、規模の大きい他大学ではなかなかできないこと。コミュニティの小ささのおかげ。いつも「どうやって教授を困らせてやろう」と思っていました(笑)

(磯)履修している全ての科目の先生に、大変なんです!とアピールするのも手ですよ(笑)何とかハンドリングするサバイバル術は留学先でも役に立ちます。

(工)自分の場合は余裕を持って単位を取るために、冬期プログラムの授業を良く取っていました。クラスが小さく、濃密に勉強できるので、おすすめです。

取材後記

春学期に工藤先生の授業を受け、とても親身に学生の話を聞き、工夫して授業をつくってくれる先生だと、そして、先生として教えるだけでなく学生からも学ぶ姿勢や、授業で呼んだゲストスピーカーの話を熱心にメモする姿を目の当たりにして、学ぶことが本当に好きなのだなと思っていました。今回のイベントではそんな先生の原点に迫るお話が聞けたと思います。

「自分は世間体とか就職とか気にならないから、どんな言葉でも説得されず、大学に行く気にはならなかった。でも、母親の話を聞いて、大学では本当に学問の風が吹いているのか見てみようと思った。」

この言葉が、先生のことをよく表していると思います。東大の大学院をトップの成績で卒業したとんでもない「エリート」なのに、本人はそんなことまったく気にしていない。驕ることはなく、純粋に学ぶことが好きだから勉強している真っ直ぐな気持ちにとても感動しました。

学生時代、先生に長文のメールを送っていたというエピソードもとても面白かったです。今回、先生にゆっくり質問する時間がなかったので長文のメールをしてみようと思います。

(取材:赤羽 柚美)

写真はすべて星野 慧さん撮影