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AIU Chat Night~教職員と語ろう~ 第2夜(豊田教授)

互いの顔が見える関係 - 1学年の入学定員が175名と小規模であることは、国際教養大学の良さのひとつです。コロナ前は学生の89%がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活し、留学生も交えて多文化共生の空間を形成していました。現在は1年次(2021年度入学)の学生全員と希望する上級生全員が学内で生活しており、キャンパス内での活動も段々と拡がっています。今回はキャンパスに住む学生である江口 爽香さん(2年次・取材)と星野 慧さん(2年次・写真撮影)に学内で開催されたイベントを取材してもらいました。

オンラインでのコミュニケーションが主流となった今、学生同士の、そして学生と教職員との顔の見える対話を再び活性化していこうと、磯貝 健 常務理事・副学長の呼びかけで、1年次の学生を対象としたシリーズ企画「AIU Chat Night~教職員と語ろう~」(全7回)が始まっています。

第2夜となる10月20日(水)は、本学グローバル・スタディズ領域の教員であり、本学アジア地域連携研究機構の機構長を務める豊田 哲也教授(近代国際法史)を迎えました。豊田教授は、外務省官僚としての自身の経験も交えながら、学生に向けて「いま、やるべきこと」を独自の視点で語ってくれました。イベント終了後も続いた学生とのやりとりの一端を、ご紹介します。

外交政策を決めるのは、外交官ではなかった

(磯)豊田先生はAIUの中でも古株の教員です。東大を卒業し外務省に入省、とエリートコースを歩んでいたのにもかかわらず、大学の教授に鞍替えした異色の経歴の持ち主です。今日はそのあたりからまず聞いてみたいと思います。先生は東大も外務省も、何となく受けたら受かっちゃった、というパターンではないのですか?

マイクを片手に、座って学生に語りかける豊田教授の写真

豊田 哲也教授

(豊)全然そんなことはなかったです。母親の東大に行ってほしいという期待が大きかったのに加えて、姉も東大でしたから、非常に大きなプレッシャーを感じていました。
高校のころから将来は海外に行ってみたいという夢を持っていて、外務省に関しては手っ取り早くその夢を叶えるために、東大法学部から外務省に進んだ、という感じです(笑)入省してフランスに赴任し、パリで4年過ごしました。その後日本に帰ってきて、満足したので辞めてしまいました(笑)
まあ…辞めた理由をもう少しまじめに挙げると、職業柄、海外では働けない妻と一緒にいたかったというのがひとつ。もうひとつは外交官に政策を決定する余地が小さかったことです。外交政策は他の省庁の担当している政策に比べて、政治家からの注目がすごく高いんですよ。だから外務省が決めるというよりは自民党の外交部会で決まっちゃうことが多い。

(磯)外交については素人なのでは?

マイクを片手に、ファシリテーターとして豊田教授に質問する磯貝副学長の写真

磯貝 健 副学長

(豊)彼らが政治のプロであることは確かです。ただ、やはり現地に行ったことのある人じゃないとわからない感覚というものはあります。アフリカに行ったことのある人とない人では、感じ方が全く違うようなものです。では政治家はどのようにして政策を決めているかというと、これは世論によるところが大きい。政治家は次の選挙にどうやって勝てるかを気にしないといけないので、国民の意見を無視できません。テレビも似たようなもので、視聴者のことを気にしながら番組を作っています。言わば、外務省は政治家の言いなり、政治家はテレビの言いなり、テレビは視聴者の言いなり、そして視聴者はオピニオンリーダーや有識者が発信する何となくの雰囲気で決めてしまいがちです。ですので大事になってくるのは、どのようにしてリテラシーの高い人材を育て、世論を形成するかだ、ということに気づいたのです。
そういった人材の育成に一役買っていると思われがちなのが大学教授かもしれませんが、意外と出来ていない気がします。ただ、AIU生に考えるきっかけを与えているという今の立場は、けっこう自分のやりたかったことに近いです。AIU生は社会の問題に対してアンテナが高く、自分なりの考えを積極的に発信しようという人が多いと思うので。

(磯)なるほど。

選択肢を間違えることはある。重要なのは、自分で選ぶこと。

(豊)20代の頃の選択って一番難しい。(学生の)皆さんはこんな田舎のAIUをあえて選ぶ勇気があるなと思いますが、自分は当時何も考えていなかった。東京に住んでいて、漠然と東京の大学に行きました(笑)
20代の頃はたくさん選択肢があるんですが、それが年を取るにつれてどんどん減っていく。選び方に失敗すると、後々後悔してしまうかもしれません。重要になるのは、その決断を自分で選んで下したものか、ということです。そうしたらたとえ失敗したとしても、自分で選んだという達成感は残ります。親や友達の言いなりで決めてしまってはいけません。人に言われた道で失敗したときは非常に悔しいですから。

感染防止用のパーティションなどで距離を取りながら、円形に座って語り合う豊田教授、磯貝副学長と参加学生

(豊)振り返ってみると、自分も大学時代にもっとインタラクティブなことをすればよかったと思います。いま自分は教える側ですが、AIUはインタラクティブすぎて大変なくらいですね(笑)
現在はコロナ禍による移動の制約がありますが、それを逆手に取るとオンラインでいろいろできる、ということになります。現在行われているCOIL(オンライン国際協働学修)もその一つです。ロシアの学生と合同で開催している(動画で紹介中!)のですが、これこそ留学生と対面で交流できない今、取るべき授業です。皆さんぜひ応募してください。オンライン時代だからこそできることをやりましょう!
最後にひとつ皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、偉そうにしている人は、私も含めてですが、たいしたことないってことです。でも自分の将来は大きく妄想してください。小さく見積もったらそこまでです。

Q&Aタイム

「AIU生」はニッチな属性

(参加学生)国家公務員試験は難しいですか?

(豊)今と昔では制度が変わってしまいましたが、昔は外務省には独自の試験が課されていました。憲法、国際法、そして経済学の知識が問われるのですが、その中でも経済学が一番重要です。憲法と国際法は、教科書を何度か読めばなんとなくそれっぽい答案を書けるようになりますが、経済学は理論をしっかり理解しないと問題が解けませんでした。私は全然解けませんでした…。
筆記試験を通過さえすれば、その他の要素が大事になってきます。それは役に立つ人材かどうかという観点。これはAIU生の持っている強みです。なぜかというと、AIUは日本語の通じない環境でも活躍できるよう英語で授業を行っていることに加えて、田舎にあるからです。外国語が使えて田舎に文句を言わない人は、どこに派遣されても文句を言わないだろうと採用されやすいはずです(笑)そして採用する側の視点からすると、キャラの被らない人材が欲しいと思うわけです。大学時代を田舎で過ごした国際派、というキャラはなかなか珍しいと思います(笑)まさにそのような学生が今年、国家公務員試験に合格して中央省庁で採用になりました。

参加学生の写真

失敗して当たり前。積極的に挑戦を

(参加学生)AIUはリベラルアーツ大学なので色々な授業が開講されています。自分の興味に沿ったものを集中して取るべきでしょうか、それとも意識的に興味のない分野からも履修すべきでしょうか?

(豊)学部生だったころの自分と違って、しっかり考えていて素晴らしいです。自分が恥ずかしいです…(笑)
将来、どういう自分を生み出したいかをイメージして履修するといいと思います。他に学部生のうちにやっておいたほうがいいことは、失敗を恐れずどんどん研究や発表をしてみることです。積極的に論文を発表している先輩もいました。(失敗して当然という)「学部生プレミアム」を使い倒して、早いうちから目立ってしまいましょう。

取材後記

豊田先生とは、ディベート部の顧問としてお世話になっていながら、授業を取ったことがなかったのでなかなか話すきっかけがありませんでした。ディベート部が主催する教授戦というイベントに参加してくださるのを拝見するにつけ、もっと先生について知りたい、という思いが強まっていましたので、今回、先生の外務省時代の話を聞く機会に恵まれたことは幸運でした。

お話の内容も非常に面白く、先生の外交政策に関する問題意識については大いに賛同するところでした。実際、そのうちのひとつは私が卒論で扱おうと思っているテーマであり、イベントが終わった後、早速メールを送ってしまいました(笑)

終了後も学生に取り囲まれ、熱心に質問に答えていた先生の姿が印象的でした。磯貝先生も評していたように、常に学生のことを考えていらっしゃるのだと感銘を受けました。課題が多いと自身でも明言されている先生の授業を、留学後に履修しようと思っています。今から楽しみです。

(取材:江口 爽香)

写真はすべて星野 慧さん撮影