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インタビュー:【手話クラブ】~ダイバーシティと共に歩む~

学生の約9割がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活する国際教養大学はクラブなどの課外活動も活発です。授業が終わった後、国籍や学年の垣根を越えて交流を深めていく時間はプライスレスです。今回は、学生に人気の手話クラブをご紹介します。代表の後藤 篤人さん(2023年入学)にインタビューを行いました。

手話クラブのメンバー
手話クラブのメンバー

クラブの活動内容

後藤:定例会は、週に2回行われます。1時間の活動では、前半に手話に関するレクチャー、後半に実践を行います。前半では単語、文法、昔話など、各回のテーマを幹部が準備し、英語も表示したスライドを使ってレクチャーを行います。

前半のレクチャーの様子
前半のレクチャーの様子

後半は、学んだ手話を実際に使うことで覚えていきます。伝言ゲーム、神経衰弱ゲーム、ワードウルフというゲームや、グループごとに自作の物語を発表するなど、馴染みのある遊びに手話の要素を盛り込みながら、さまざまなアクティビティを、いつも和やかな雰囲気で楽しんでいます。また、各メンバーに自身の成長を感じてもらおうと、各セメスターで数回、定例会に地域のろう者の方をお招きしています。ろう文化に触れ、直接語り合うことで、聴者とろう者がそれぞれ当たり前と思っていることの違いなど、毎回多くのことを学んでいます。

後半は実践!
後半は実践!

クラブ活動の魅力・楽しさ

後藤:私は、ろう文化に触れるということは、海外の文化に触れることによく似ていると考えており、知らない世界、異なる文化を開拓していけることに魅力を感じます。手話は学ばないとコミュニケーションを取るのが難しい言語です。私はその社会に身を置いているわけではないので、初めは基本的な知識もありませんでした。日本国内の手話の中にも主に二種類存在することを知った時は驚きました。去年の春学期に初めて定例会に参加した際、人生において手話を学ばないという選択をして、ろう者の世界を知らないままでいては、自分の世界を狭めてしまうと思いました。私は自分の世界を自分で狭めるのはもったいないと日々感じており、それはAIUへ入学した動機でもありました。

手話は言語そのものとしてとても魅力的です。同じ日本国内に存在する言語ということもあり、日本語のイメージ、言語の根幹をなす文化が色濃く反映されています。手話で使う表情と手の動きには、機転のきいた表現も多く、素敵な表現に出会うたびに大きくうなずいてしまいます。また、会話の中では本当の意味で相手と心でつながっている感覚を覚えます。そして、敬意、思いやり、その他の多彩な心情など、感情の機微を伝えることが得意な言語です。日本文化と深いつながりがあることで、「そのような表現をするのか」と自身の知る日本文化を振り返り腑に落ちるとともに、感銘を受けることばかりです。

手話だけで「話しかけられた」時の衝撃

後藤:最初に活動に参加した際、AIUの先輩が手話だけで「話しかけて」きたことは衝撃でした。もちろん、その時の自分には全く理解できませんでした。すると、先輩が「イメージしてごらん」とおっしゃいました。その瞬間に、自身が無意識に持っていた手話を学ぶことに対するイメージは、ただ手話を「覚える」ことだったと気づかされました。それと同時に、手話を学ぶ中で、まずは自分で想像することが大切だと気がつきました。手話にはニュアンスや度合いを表す表現がたくさんあります。例えば「雨」という言葉でも、どの程度の激しさなのか、小雨なのか、突然降り出した豪雨なのか、はたまた優しい催花雨なのか、それを手話では手と表情で見事に表現します。「推測する」という醍醐味を覚えた瞬間に手話に魅了されました。

よく、部員たちとおしゃべりならぬ、通称「手話べり」をします。手話の上達は、人と話すことが一番の近道だと思います。ひらがなの指文字を一通り覚えたら、あとは実践のみでも、数か月である程度滞りなく意思疎通できるようになります。おそらく、根本の部分が日本語の仕組みと似ているからだと思いますが、指文字も覚えやすいです。英語などの他の言語の場合、文化的背景がわからないことも多く、手話のようにはいかないと思います。覚えた手話は、どんどん使うことでさらに定着していきます。例えば、「ラーメン行こうよ」などの表現は、一度「ら」という指文字を習得したら絶対に使いたくなる手話表現です。(笑)

手話クラブのメリットについて

後藤:活動に参加する人には、手話に関するドラマや物語から興味を持った方々や、より漠然とした手話への興味関心から参加してみたという学生が多いです。そしてまず初めに初心者の方には、手が見える距離であれば遠くにいる人とも会話ができること、静かな図書館でも無言で話せ、秘密の会話もできること、といった分かりやすい手話の魅力を伝えます。これらは手話を学び始めるうえで、いわゆる「しっかりとした動機」ではないかもしれません。しかし、よりたくさんの人に手話を知ってほしいと考えた時、手話を学ぶ動機においてそれぞれに「一方は高尚かつ適当である、他方はそうではない」、と言ったような境界を引くことに大きな意味はないと考えました。私は個人的に、各人の動機は他者によって意味付けられるものではないと考えているので、今後もその考えに従って代表として動いていきたいです。何よりも、もっと自分から学びたくなるようなきっかけ作りが、第一歩目には必要なのではないかと考えています。

また、活動の中でのインクルーシブな取り組みとして、手話を「楽しく」学べる雰囲気づくりを心がけています。これからもあたたかい雰囲気でやさしく、いつでも、ふらっと、誰でも受け入れるようなものにしたいと思います。

私には高校生の時にろうの友達がいました。彼女は補聴器をつけていたので、当時は手話を使うということなど知らずに口話で会話をしていました。今となれば私の手話への漠然とした興味の源泉は、彼女がSNSで手話を広げる活動をしていたからだったのだと思います。彼女の活動を知った当時は、手話って楽しそう、自分も手話ができたらもっと多くの人と話せたかもしれないし、これからよりたくさんの人と話せるかもしれない、という思いを持ちました。

個人的に、ろう者の方々の表現の幅は、むしろ聴者の方々よりも豊かかもしれない、と思います。聴者の言語では、単語の役割のほとんどはその単語の意味を運ぶことだと思います。一方で手話においては、表情やジェスチャーの絶妙な強弱で、単語自体がさまざまな意味、程度、心情を持つことが多く、その世界はとても色鮮やかです。

大変なこと

後藤:手話を調べる時に、何が正しいのか分からず困ることがあります。辞書としての資料があまりないこと、方言などもあり、表現に正解はないように思います。

また、参加している留学生に手話を説明する時には、日本文化が反映された手話表現を「英語」で、各留学生の文化的背景でも分かるように同時に説明するのが大変です。基本的に手話、日本語、英語の3つの言語を同時並行で使用するので、頭は常にフル回転です。細かいニュアンスを伝える補助として、スライドにも英語訳、イラストを入れるようにしています。

大変なことも多いですが、それよりも幹部などの役職に関わらず「大変だったら手伝うよ」と言ってくれる仲間たちの存在が大きいです。大変なことよりも楽しいことが思い浮かぶのも、私にとっての手話部の魅力です。誰でも、ふらっと、気が向いたら来ていいんだよ、という雰囲気を引き継いでいきたいです。そして今その雰囲気が守られているのは、現在手話部に所属してくれている仲間のおかげだと思うので、所属してくれている皆が居心地よく感じられる部活を作り続けていきたいと常々考えています。

今後の抱負

後藤:以前高校の同窓会で、高校の時のろうの友達と再会しました。もちろん、手話で話しました。彼女は非常に驚き、一年間で何があったのかと聞きました。彼女のSNSを見たのがきっかけで手話を学ぼうと思い、勉強してみたらとても楽しいと伝えたところ、すごく喜んでくれ、手話を学ぶこと、世界を狭めないことの素敵さの一端を、自分自身ようやく理解した気がしました。彼女とは現在もいい友達です。

私は代表になった後、全国手話検定試験3級に合格しました。予想よりも簡単だったので、今後1級まで取得するつもりです。これから入学してくる学生たちに何が響くのか私には分かりません。しかし、手話部で検定資格を取得できる道もあること、それも手話を学ぶこと・手話部に入ることの動機の一つになるかもしれません。そういったことも考えながら、自身をモデルケースとできるように検定を取得するなど、日々考えを巡らせています。また、私は来年ドイツへの留学を予定しています。そこで、ドイツのろう文化についても学びたいと思っています。その留学プロジェクトについて、文部科学省が展開する海外留学の経済的支援制度である「トビタテ!留学JAPAN」の面接でお話しさせていただいたところ、日本代表派遣留学生として選出していただきました。あたたかい手話部を作り上げてきた先輩方や頼れる同期、いつも元気をくれる後輩、そんな皆に誇れる自分になれるよう、今後も全力で自分の世界を広げていきたいと思います。そして、魅力溢れる手話を、手話部の活動を通して今後も広めたいと思います。

国際教養大学(AIU)はグローバルリーダー育成のために必要な3つの価値基準・行動指針として「#ダイバーシティと共に歩む」「#互いに高めあう」「#共に価値を創造する」のAIU Core Valuesを掲げています。