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私の留学レポート:アメリカ/ジョージ・ワシントン大学~佐藤 究さん(3)~

国際教養大学では1年間の留学が必須となっています。語学留学ではありません。専門科目を現地の学生と共に履修し、本学での卒業単位の一部として認められる必要がある、「本気」の留学。学生が、それぞれ深めたい学問分野に応じて200以上ある海外提携大学の中から選択します。良いことばかりじゃない、ときには苦しいことや辛いこともあるのがAIUの「本気」の留学です。ここでは、そんな学生一人ひとりのストーリーを自身の言葉でレポートしてもらいます。

今回は、アメリカに留学した佐藤 究(さとう きわむ)さんのレポート最終回をご紹介します。

佐藤 究さんの写真
佐藤 究さん(ジョージ・ワシントン大学の前にて)

ホワイトハウスで岸田首相の歓迎式典に参加

「4月10日に岸田首相が訪米されるので、ホワイトハウスで開催されるレセプションで、首相をお迎えする日本人学生を、ジョージ・ワシントン大学から集めてほしい。」

3月某日、現地で活躍されている先輩から、このような電話をいただきました。非日常な依頼に当初は耳を疑いましたが、大使館の方ともやり取りを行い、ついにホワイトハウスに入ることとなりました。当日、9年ぶりの公式訪問となった岸田首相の訪米は、儀仗隊のパフォーマンスや演奏に包まれて、とても華やかな雰囲気でした。私は事前のロジスティックスを担当し、数多くのレセプション参加者の中の一人の学生として両首脳のお話を聞いただけでしたが、映画のワンシーンでも、歴史の教科書に載っている写真でもなく、自分の目で日米関係の深化の瞬間を見ることができました。

ホワイトハウスのレセプション後の写真
ホワイトハウスのレセプション後に一枚。大きな舞台を少しだけ経験した気になれました。

留学を通じて成長したこと

授業やインターンシップを通じて成長した実践的なスキルについて2点挙げます。
1点目は、問題把握と分析能力です。ジョージ・ワシントン大学は数多くのアメリカの名だたる外交官を輩出してきた歴史もあり、非常に実践的な授業が多かったです。例えば、与えられたある問題や状況に対し、政策メモを作成しブリーフィングを行う訓練を何度も繰り返す授業がありました。実践的なスタイルの授業の経験から、迅速に問題を把握し、それを分析する力、またその結果を簡潔で分かりやすく伝える能力が磨かれました。

2点目は、新聞社のインターンシップを通じて培った協働と意思疎通の能力です。インターンシップで私が担当した仕事の内容は、記事を書くための背景情報のリサーチ等でした。頼まれたリサーチを進めるなかで、求められていたものと違う内容を調べていたことがありました。この失敗を糧に、業務の目的や協働する相手の意図を的確に捉え、分からないことは確認しながら仕事を進めることを意識するようになりました。結果として求められていたアウトプットを的確に提出できるようになりました。

次の課題

留学中、さらに改善する必要があると認識させられた課題もあります。
一つは、日本政治や米国政治についての知識不足で、一通り知っている「つもり」だったことを、実は本質的に理解していなかった点です。例えば、日本のメディアではアメリカの大統領に関する報道が多いため、大統領を絶対的な権限を持った立場だと認識していました。しかし現地の学生と政治について議論すると、大統領と同じくらい議会の動きが注視されていることに気がつき、三権分立を重んじるアメリカの文化を再確認しました。

もう一つは、英語表現の精度の低さです。留学に行く以前は、英語の表現は多少文法を間違えても意思疎通ができると思っていました。しかし、英語を第一言語とする人が大多数を占めるワシントンD.C.で生活し、不正確な表現が誤解を招いてしまうことや、話の趣旨が伝わらないことを何度も経験しました。国際政治を学ぶことで精一杯だった留学も終わり、少し時間的な余裕ができた今こそ、より正確な英語をしっかりと身につけたいと思います。

友人と米国議会議事堂前にて
米国議会議事堂前にて。議会でインターンシップをしている友人と。(写真左から2人目が佐藤さん)アメリカの歴史に少しだけ詳しくなりました。

今後の抱負

振り返ってみると、知らず知らずのうちに、アメリカの文化に触れるという目標は達成できたと思います。ニューヨークやボストンなど、有名都市の歴史的な建築物はもちろん、ワシントンD.C.の郊外にある小さな街を訪れる機会にも恵まれました。大学でもパレスチナ支持のデモを何度も目にし、日本ではあまり見られない政治的な分断を肌で感じました。

もう一つの目標として掲げていた、ロシアと西側諸国の国際政治観のギャップを学ぶという点でも、米国政治を中心にインターンシップ等を通じて学ぶ一方で、ロシア政治や中央アジアの安全保障についても授業を通じて理解を深められたと思います。

ニューヨーク証券取引所前の写真
世界経済の中心、ニューヨーク証券取引所をバックにウォール・ストリートで記念撮影。

その国の事情は実際に訪れないと分からない

帰国して他国に留学していた友人の話を聞くと、彼らの体験と自分が獲得した知識との差異を感じました。自分がワシントンD.C.で学んだ他国の情勢は、あくまでもアメリカの首都からみたその国の事情であり、実際に訪れてみないと分からないこともあるのだと考えさせられました。今後は西側諸国の観点による情報だけでなく、実際に現地に足を運び、そこで暮らす人と関わり、自分で考えることを、ロシアだけでなくさまざまな国や地域で大切にしていきたいです。

ワシントンD.C.の写真
雪化粧をしたワシントンD.C.の様子。地元秋田に比べると雪はかなり少なかったです。

自分の目で確かめることの大切さ

留学に限らず、現地に足を運ばないと分からないことはたくさんあると思います。私自身、留学前はアメリカは白人が大部分を占める社会だと思っていましたが、想像以上に多様な人種で構成されていて、必ずしも英語が流暢な人ばかりではないことに気がつきました。日本と関係の深いアメリカでさえ、留学前と後で印象はがらりと変わりました。この経験から学んだことは、どんな国でも偏見なく、足を運び自分の目でその国の様子を確かめることの重要性です。このことを胸に刻み、今後もさまざまな国や地域を積極的に訪れたいと思います。

ナイアガラの滝の写真
カナダ側から見るナイアガラの滝は圧巻でした!水の勢いが強いので着替えの持参も忘れずに。

留学の学びは授業の外にもたくさんある

私の留学計画は学術面に重点を置いたものでしたが、留学で得られる学びは授業の外にもたくさんありました。どのようなきっかけでも、目的意識さえ持っていれば学びは得られると思います。留学に行きたい理由、動機は人それぞれだと思いますが、難しく考え過ぎず、まず一度、情報を集めるところから始めてみてはいかがでしょうか。もしかしたらホワイトハウスの中に入れるかもしれません!

改めて全3回に渡るレポートを読んでいただきありがとうございました。ワシントンD.C.は政治や学問、芸術と非常に魅力的な都市でした。

ワシントン記念塔の写真
ワシントン記念塔はワシントンD.C.のシンボルです。画面の端には日本から送られた桜の木がうっすら見えます。

国際センターからひと言

1年間の留学が卒業要件であることから、ある学生は留学を卒業のための手段や最終目的として捉えているかもしれません。しかし、1年間の留学は自分がどんな将来を切り開きたいかを見つける「扉」なのです。佐藤さんの場合、多くのスキルや知識を磨き、いくつもの目標を達成することもできましたが、日本と米国の政治、他国から見た世界情勢、英語表現の正確さなど、自分に足りないところを気づかせてくれた留学でもありました。このことは、今後の学業や仕事における次のステップへの「扉」を開くことになったと言えるでしょう。この貴重な思い出をぜひ生涯持ち続けてほしいです。今後のご活躍を心よりお祈りいたします!

英語版ウェブサイトでは、留学生たちの本学での留学体験記を「Student Voice」として紹介しています。ぜひこちらもご覧ください。