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Faculty Voice Series Episode 8. 阿部 祐子 教授

学生のみなさんが教室で見る教員の姿、そして、本学を目指す受験生が、パンフレットや著書から知る教員の姿は、ほんの一面でしかないのかもしれません。
そこで、Faculty Voice Seriesをスタートし、本学の教員の真の姿に迫るエッセイをリレー形式でお届けすることにしました。専門分野や研究内容だけでなく、趣味、人生観、若き日の想い出など、様々な角度から語られるそれぞれの教員の人柄に、ぜひ触れてみてください。

Episode 8.は、阿部 祐子(あべ ゆうこ) 教授です。

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阿部教授は東京都出身で、1997年に英国のシェフィールド大学で教育学の修士号を取得した後、本学が開学した2004年当初から准教授として教鞭を執っています。2016年にはお茶の水女子大学で異文化間教育の博士号を取得し、2017年からは本学の日本語プログラム代表として日本語を学ぶ多くの学生の指導に当たっています。

阿部教授の写真

若き日の葛藤

「今行かないと一生行けないかもしれない」そう思って、卒業後3年半務めた会社を辞めて、当てもなくイギリスに飛んだ。大学時代に3週間の海外ホームステイで強烈なインパクトを受けてから、いつかまとまった期間、海外滞在をするのが夢だった。専攻の心理学ゼミで、国によって教育観や親子関係が異なることを学び、現場で確かめたい気持ちも強かった。就職後、仕事への意義が見いだせず、定時後に様々な研修に通いながら将来を模索していた。当時付き合っていた人もいて、このまま結婚したら、もう二度と海外など行けないという焦りもありこの決断をしたのだった。

ホストファミリーのJと阿部教授のツーショット写真

Jと私。ホームステイ先の庭で。

語学学校を通じて相性のよさそうな家族を探し、夫婦と4人の子供とセントバーナードの一家に巡り合う。夫は軍隊勤務で数週間に1度しか戻らない。妻のJは、私より少し年上で、子供と犬と近所に住む両親の世話に明け暮れていた。そこで私は、子供たちについて定期的に学校に通った。中学校では、ドラマや宗教などの授業を見学し、語学の授業では数分間、日本語を教えさせてもらった。小学校では、読み・書き・計算などの活動にボランティアとしてついた。当時のイギリスの学校が、英語もろくに話せない外国人を受け入れてくれる柔軟性や寛容さに、大いに感嘆したものだ。帰宅後は、学校での子供の様子や日本との違いなどについて、毎晩Jと話し込んだ。その中で、欧米ばかりに目が向き、自国についての知識のない自分を内省するとともに、日本の慣習や価値観についても考えた。Jは、私の拙い英語から言いたいことを推測する能力に長けており、明るく感情表現がはっきりした人だった。

彼女の魅力に助けられ、私はここでの生活にどっぷりつかった。その間には、家族の病気や死をはじめ様々な出来事が起こり、その都度、家族内の葛藤に巻き込まれ、自分のふがいなさを嘆きながらも親密度は深まっていった。SNSもメールもない当時、日本との連絡は手紙と稀にかける電話ぐらいで、現地での日本人との接触もほとんどないまま、手持ちの費用とビザが切れるまでの1年を私はこうして過ごした。

阿部教授がホストファミリーに囲まれて誕生日ケーキを持っている写真

ホストファミリーに誕生日を祝ってもらう。

そして帰国。そこには逆カルチャーショックが待ち構えていた。両親や友人からは、口調や性格がきつくなったと言われ、付き合っていた相手とも破綻した。日本は、私にとって住みにくい場所となっていた。他者への配慮や迷惑を避ける態度は、窮屈に感じられ、控えめな謙遜の文化は、表面的な空々しさに映った。日本的コミュニケーションスタイルに戸惑い、自分の価値観の変化を自覚する中、日本が自分の国ではなくなり、根無し草になったような気がした。自身の変化について考え続ける一つの道として、私は日本語教師となり、異なる文化間のコミュニケーションについて外国の人々と共に学びたいと考えた。

その後、何度か日英の行き来を繰り返す中、両国の多様な側面を認識することで、少しずつ日本を自文化として受け入れられるようになったが、それには長時間を要した。AIUが開学する以前の敷地に設立されていたMSUA(ミネソタ州立大学秋田校)で職を得たのも大きな助けとなった。昔ながらの日本が色濃く残る秋田で、アメリカの大学組織下で外国人の同僚と働くのは、私にとって理想的環境であった。日本の伝統的スタイルと先駆的な教育スタイルの交じわる場所で、私はやっと居場所を得られた気がしたのだった。

時代は移り、留学はぐっと身近になった。AIUは、非常に多様な言語・文化背景をもつ学生を多く迎えている。その一人ひとりに異なる経験があり、私などよりもっと大きなアイデンティのゆらぎを覚えている人も少なくないだろう。しかし、苦しいながらも貴重な経験を通して見えてくる生き方がきっとあるはずだ。少なくとも私は、自分の選択した道が間違っていなかったと信じている。

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