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AIU Chat Night~教職員と語ろう~ 第3夜(ヴィエルネス准教授、堀井助教)
互いの顔が見える関係 - 1学年の入学定員が175名と小規模であることは、国際教養大学の良さのひとつです。コロナ前は学生の89%がキャンパス内の学生寮・宿舎で生活し、留学生も交えて多文化共生の空間を形成していました。現在は1年次(2021年度入学)の学生全員と希望する上級生全員が学内で生活しており、キャンパス内での活動も段々と拡がっています。今回はキャンパスに住む学生である赤羽 柚美さん(3年次・取材)と星野 慧さん(2年次・写真撮影)に学内で開催されたイベントをレポートしてもらいました。
コミュニティとしてのAIUを体感する「場」として企画されたシリーズ「AIU Chat Night~教職員と語ろう~」(全7回)。第3夜は発起人の磯貝副学長をホストに、ノア・ヴィエルネス(Noah Viernes)准教授(政治学)と堀井 里子助教(政治学、強制移住学)が、学生と語らいました。
研究への道の扉を叩く-。
(磯)お二人はなぜ教員としてAIUを選んだのでしょうか?
(ノ)私はもともと地元のハワイで教えていました。専門分野は東南アジアの政治学で、タイ語を勉強していました。AIUは私が研究するのに適した場所でした。そして、日本での研究は東南アジアの研究と一体となって私の研究をよりよくするのではないかと考えたからです。
(堀)私は(AIUと同じ)秋田市の雄和の生まれで、このキャンパス(が位置する場所)にはしばしば遊びにきていました。大学卒業後、日本で働くことは予想していませんでしたし、先生と呼ばれる職に就くことも考えていませんでした。しかし、大学院の学生が情熱をもって研究しているのを見て、もし自分が研究を突き詰めたら、世界はどんな風に見えるのだろうかと思って、研究の道に進みました。
一橋大学とオックスフォード大学の大学院で勉強しましたが、もし日本に帰るなら、AIUは魅力的だと思ったのです。開かれたAIUの環境や、AIUの哲学に惹かれていました。そして、イギリスにいた時にちょうど、AIUがヨーロッパについて教えられる教員を探していたのです!幸運なことに私がAIUで教えることになりました。
(磯)堀井先生はなぜ、migration(難民や移民など国境を超えた人の移動)に関心を持ったのですか?
(堀)私は大学生の時、メキシコに留学しており、大学卒業後の2年間はメキシコの大使館で働きました。そこで、ラテンアメリカの人々が南から北へ、ラテンアメリカの国々から米国へ移住する姿やその背景にある社会的な格差を目の当たりにしました。その時「世界はなんて不平等なんだろう」と思ったのです。私たちは、どこで生まれるか決められません。それなのに、生まれた場所は人々の人生に大きく関わってきます。
私はそこで国境に関心を持ちました。国境の概念やシンボルとしての国境が私たちの運命を決めることに関心を持ったのです。
情熱に突き動かされて-。
(磯)研究の道に進むことで、将来への不安を感じたことはありますか?
(堀)そうですね、私はとてもナーバスになっていました。大学の門は狭い上、日本では博士号はプラスにはならないことも多いのです。さらに、修了できるかも不確実でしたし、友達が活躍しているのを見ると焦ることもあります。院生時代に自転車で大学へ向かっている時、知らずに涙が流れてしまったこともありました。でも、同じような不安な気持ちを共有できる友達がいたことは本当に良かったです。
(ノ)多くの博士課程の学生が不安を感じていると思います。私は自分の母国語が英語なので、少しは気が楽だったかもしれません。しかし、タイにいたときはとても大変でした。発音を間違って笑われたこともあります…。そういう意味では、(すべてを英語で学ばないといけない)AIUの環境も大変ですね。でも、研究への情熱は不安を吹き飛ばしてくれます。
ハワイでは、博士課程の学生や多くの学術書を読みこなす人が必ずしも尊敬されるわけではありません。どちらにせよ、私にとってはただ学ぶことが好きで、研究は不安を乗り越えさせてくれるものだったのです。研究とは、興味をもってその答えを探求するということに尽きるのだと思います。
(堀)周りの人は、私が研究をしていると、「まだ研究を続けているの?!」とか、「勉強が好きなのね!」とか言いますが研究すればするほど、自分が知らないことが本当に多いことを知ります。本を読めば読むほど、自分が基礎を分かっていないことに気がつきます。
それでも、研究をします。それは、やはり情熱があるからでしょうか。自分に失望したこともありますが、やっぱり自分が興味があることを知りたいという思いは本当に強いのです。
学生こそが、AIUの価値。
(磯)ありがとうございます。全然違う話題ですが、おふたりはAIUのどこが好きですか?
(ノ)そうですね、まず言えるのは、「天気」ではない、ということですね(一同爆笑)真面目に答えると、AIUの環境やリベラルアーツはとても価値のあるものです。たくさんの分野を繋いでくれるものだからです。そして、なにより学生ですね。英語力だけでなくて、自分のコンフォートゾーンを飛び出して、外に出る学生がたくさんいます!
(堀)私がAIUで一番好きなこと…たくさんたくさんありますが、やはり、小さな大学ということもあってみんながお互いを知っていることでしょうか。ヒエラルキーを気にせずに話すことができます。
そして、AIUの学生はやる気に満ち溢れていて、未来を切り開こうとするひとがたくさんいますよね!
Q&Aタイム
(参加学生)地元を離れて、海外に行くことに抵抗はありませんでしたか?
(堀)実は、とてもワクワクしていたんです。「自由」になれる!と思っていました。外の世界を見てみたかったのです。私は昔、自分をノマド(遊牧民)のように感じていました。もちろん、ひとりぼっちで寂しいと思ったこともあります。自分ではあまり気がついていなかったのですが、ホームシックだった時期もありました。
(参加学生)社会に出ると、専門分野を持っていることを大事にしている気がします。私たちリベラルアーツの学生は、たまに自分たちの強みが分からなくなります。
(堀)AIUは本当に幅広い教科を提供しています。様々な分野を学ぶことで、何が自分にあっているか考えることができるのです。また、専門がなくても幅広い知識を持っていることは強みになります。なぜなら、それはより広い視点で物事を考えられるということになるからです。クリティカルシンキングを鍛えることもできますね。
(ノ)同感です。幅広い視点を提供してくれるのはリベラルアーツですからね。フレキシブルに考える力がつくので、様々なことに適応できる力を育てることができます。
(磯)最後に、学生へのメッセージをお願いします。
(ノ)なにより「焦らず、ゆっくり」ということです。
(堀)そうですね、私も同じことを言おうと思っていました。もし今、隣に20歳の時の自分がいたら「焦らないで!」と声をかけたいです。就職がうまくいかないとか、大学が4年で卒業できないとか、社会の「常識」にとらわれすぎず、ゆっくり頑張ってください!
取材後記
堀井先生、ノア先生には授業でとてもお世話になっており、おふたりのご自身のお話を聞ける素晴らしい機会でした。特にAIUの一番好きなところは学生!と生き生きと語ってくださったおふたり。講演が終わった後に堀井先生とお話ししたのですが、その言葉は心からそう思っているということを伝えてくださいました。
実は、私はコロナ下で留学も中止になり学内にも戻れず、AIUに来た意義を疑問に思うこともありました。しかし今は、AIUの友人の学ぶことへの意欲とそれに全力で応えてくださる教授の存在はかけがえのないことであるのを日々実感しています。なにより、教授は一方的に知識を授けるのではなく「共に学ぶ」という姿勢で真剣に向き合ってくださるのは本当にありがたいことです。今日は、おふたりのそうした姿勢の原点を知ることができた気がします。
AIUの小さなコミュニティは、ひとりひとりが成長する良い場です。そのことに感謝して学びを深めたい。そして、後輩にも繋いでいきたい。お話を聞いて、そんな思いを強くしました。「焦らず、ゆっくり」頑張っていきたいです。
(取材:赤羽 柚美)