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AIU✕秋田県内企業連携プロジェクト(2)秋田物産を世界最大規模の食品見本市「SIAL Paris」へ出展
秋田の大学生、パリのレストランを駆け回る
AIU:フランス現地には行きましたか。
梅村:学生は10月のSIAL Paris開催に先立ち8月に2週間程度、現地調査の目的でパリに行きました。パンフレットのドラフトを持って、練ってきた戦略が正しいのかを試す意味で現地の日本食レストランやうどんのお店、チーズ店や食材の卸業者などを訪ねました。現地で飲食関係の方々にパンフレットをもって説明したり、実食してもらったりしてSIAL Paris出展に向けて様々なフィードバックを受けました。
AIU:渡仏前に、そういった業者への訪問予定は取っていましたか。
梅村:いいえ、事前にアポイントが取れたところは2つしかありませんでした。実は渡仏2日目は飛び込み営業のようなやり方で、パリのいろいろなお店を訪ねました。現地のお店の門を叩いて「すみません、こういう大学でこういう活動をしている学生ですが」と。すると、お店の方から「では1週間後のこの日は空いているので来てください」と快諾をいただき、味の評価や調理方法のアイデアをいただいたり、インタビューの機会を得たりしました。インタビューに答えてくださったレストランのオーナーが友人のシェフを紹介してくださったり、卸売り業者の担当の方と会わせてくださったり、人脈が広がっていくのがとても面白かったです。人とのつながりによって調査に深みが増し、結果的に街頭インタビューでは35組、レストランや業者は24店舗に協力をいただきました。加えて、現地のスーパーマーケットなどでヴィーガン対応の日本食についても調査しました。
AIU:現地調査でのフィードバックを受け、SIAL Parisに向けた準備で変更点もありましたか。
稲庭うどん小川:学生たちが現地調査をしてくれたおかげで、パンフレットも完成度が上がりました。最初は欲張ってしまって、あれもこれも盛り込んでパンフレットが文字だらけになってしまって。やはり、最初は興味を持ってもらうために、一目で稲庭うどんがどんなものか分かるようにすることが大切だと気づきました。そこで、イメージが湧くような写真を中心としたレイアウトに変更し、完成したパンフレットを持ち込んで私たちも10月、SIAL Paris開催中のパリを訪れました。
AIU:SIAL Paris期間中、現地のバイヤーたちの反応はどうだったんですか。
稲庭うどん小川:梅村さんがパリを駆け回って訪れたお店の方々が、そのことを覚えていてくれて実際にブースまで足を運んでくださいました。ある卸売のバイヤーからは「あの時は突然、AIUの学生です、と私を訪ねてきたのでびっくりしたけど、学生の熱意に押されて今日は絶対に会場へ行こうと思った」と言ってもらえました。「梅村さんにも、私が会場に来たことを伝えてください。約束を守ったよ」と。その積み重ねで、新たに8社との取引が成約しました。これはとても大きな成果でした。
AIU:いぶりがっこの反応はどうでしたか。
まこと農産:SIAL Parisはヨーロッパだけでなく世界中からバイヤーが集まる展示会ですが、肌感覚で8~9割のバイヤーがいぶりがっこを「初めて見た」という反応でした。ただ、パンフレットはビジュアル中心に表現したため、言葉で説明しなくてもどんなものかすぐに伝わって、理解してもらえた手応えがあります。実は日本ではいぶりがっこの認知度は相当上がっていて、最近の展示会ではあまり注目されないんです(笑)。でも海外では驚きの表情をしてくれて、まだまだ知らない人がいてそこにマーケットがあるんだなと、改めて可能性を感じました。
稲庭うどん小川:いぶりがっこの方が人気でしたよ。みんな足をとめて、また人だかりができているなと羨ましかった(笑)。
まこと農産:ヨーロッパで燻製は馴染みのある調理法ですが、基本的に動物性のものを燻製することが多いそうです。先程ヴィーガンの話もありましたが、海外のバイヤーが「ヘルシーなソーセージ」と表現したのが印象に残っています。実は、SIAL Parisでの商談をもとに輸出向けの新商品開発を始めました。伝統的にはいぶりがっこ作りは寒い時期にしかしないのですが、5月から試作開発に取り掛かり、新たないぶし小屋を建てて数種類の仕込みに入っています。
やはり、海外に出てみないとそういう気づきはなかったと思います。製造業では認知度が上がると、新しいものを作るというよりどんどん増産しようという動きになりますので。新たな気づきから世界を見てどういったアプローチができるか、付加価値は何か、といった面を考えるようになりました。
新しい視点で伝統産業を見つめ直す
AIU:梅村さんはAIUへの入学をきっかけに秋田にきて、秋田のローカルなものを世界へ発信するという活動をしています。いままでは馴染みがなかった地域に根ざしたものを、さらに違う文化圏の人たちにどう伝えるか悩ましいところもあったと思います。
梅村:むしろ秋田のものを、新しい視点で見るチャンスだったと思います。もし、私が秋田出身だったとすれば、慣れ親しんでいるからこそ好奇心をもって見ることができなかったと思います。参加した学生チームも、全員が秋田出身ではありませんでした。プロジェクトが始まったとき、小川社長から稲庭うどんの歴史や食文化についてレクチャーを受けましたが、チームのみんながとても魅力を感じて、その経験で私たちの感じた新鮮な魅力をどう伝えるか、強く意識しながら活動してきました。
稲庭うどん小川:私たちも、自分たちがつくったものが秋田の人より秋田県外の人からどのように受け止められるかに常に興味があったので、学生との連携はとてもいい機会でした。
もう一つは、私たち自身が地域産業に従事しながらも「秋田って田舎だし、何もないし、人も来ないし」という感情が気持ちのどこかにあって。でも、今回の活動を通してAIUの学生たちは、自分たちの感想をストレートに話してくれて、その言葉に対する責任感も伝わったんです。若い人たちが秋田のことが好きになって何かをやってみたい、何かを発信してみたいという真っ直ぐな気持ちを持ってくれるのを見て、やはり秋田で伝統産業に従事する私たちもそういう気持ちを忘れてはいけないなと、改めて振り返る機会でした。
まこと農産:私は秋田県立大学出身で大学を卒業してから約20年になります。今回のプロジェクトを通じて得た収穫は、自分の固定観念が崩れたことです。慣れてしまうと、それがステレオタイプになってしまうんですね。例えば、試食の食べ合わせを考えるときも、いぶりがっこってチーズでいいだろうというのが自分のどこかにありました。ただ、試食を重ねていくと自分の中ではハズレだと思っていた組み合わせが、海外のバイヤーからはすごく高く評価されたりするんです。代表的なのが「メロンといぶりがっこの食べ合わせ」です。私もメロンと一緒に食べてみましたが、イタリアンの生ハムメロンのように、スモーキーな風味がメロンと合って。ヨーロッパでは好まれる味付けだろうなと思いました。
AIUの留学生たちにもいろいろな組み合わせで試食してもらって、梅村さんからも「これ高評価だったんですよ」とデータを見せてもらいました。些細なことかもしれませんが、私にとっては大きな発見でした。実際、いま海外向けのいぶりがっこレシピ集を作っているんですが「オレンジとアボカドといぶりがっこのサラダ」のような、いままで思いつかなかったようなことをやっています(笑)。
梅村:活動を振り返ると、多くの人と関わるなかでフランスでの日本食文化の紹介にAIU生として貢献できたと思います。人の縁に恵まれ、中身の濃いプロジェクトになったと思います。現地で自分が訪ねたレストランやバイヤーからの反応とフィードバックはとても刺激的でした。
大学の枠を超えたプロジェクトに参加して、AIUの中での前提や価値観を見直すきっかけとなりました。自分たちの発言やアイデアが実際に商品の見た目や売り上げとして影響を与えるという実社会での経験はとても刺激的でやりがいを感じました。また、企業や県庁とミーティングを重ねる中で社会人に必要な資料作成やより良い提案の伝え方といったスキルを学ぶことができました。私たちの提案や活動をあたたかく見守ってくださった県庁職員の皆様、企業の皆様、そして大学関係者の方々にはとても感謝しています。ありがとうございました。
担当教員からのメッセージ
まず株式会社花善の八木橋社長に、祝意および謝意を申し上げます。CJPFアワード2023プロジェクト部門準グランプリの受賞、大変おめでとうございます。またこのような素晴らしいプロジェクトに本学の学生を参加させていただき誠にありがとうございました。2020年に八木橋様からお声がけしていただけなかったらこれらのプロジェクトに本学の学生が参加し、ご指導いただくことはありませんでした。
改めて概要を説明しますと、2021年度は株式会社花善様の「EKIBEN ToriMéshi Bento」プロジェクトに、2022年度は前年のプロジェクトの成功を追い風として秋田県産品のフランス輸出促進プロジェクトに本学の学生が参加しました。これら一連のプロジェクトは、本学にとって製造業者・大学・県による産学官連携事業の先駆け的存在になります。
産学官連携事業というと大学の研究室で得られた科学的知見を産業に応用するというイメージが大きいと思いますが、留学生を対象としたマーケティング調査等、本学の交換留学制度を活かしたユニークな事業形態を示すことができました。
これらのプロジェクトを通じて学生たちは多くの付加価値を創出してくれました。例えばいぶりがっこをフランスの食文化に受け入れてもらうため、何度も調査、試食、議論を繰り返し、アペロ(食前酒)に楽しんでもらうような新しい食し方を提案しました。またうどんについては廉価な外国産の製品がパリで普及していることから、まずは高価格帯の日本料理店で「稲庭うどん」として取り扱ってもらえるよう差別化を念頭に販路開拓をしました。
ビジネスとして結果が出たことは何よりですが、これらのプロジェクトを通して学生が成長していく様子を見届けることができたことは幸甚です。元々勉学を怠らない学生ばかりでしたが、どんなに忙しくても講義をおろそかにせず、何事にも全力で取り組む様子は見ていて頼もしく感じました。こうして「勉学は頑張って当たり前、その上で事業創出に参画したり地域貢献を通じて全方位的に成長するAIU生」に育っていくのだと思います。参加した学生にはこの経験を活かして更なる成長と活躍を期待しています。
プロジェクトを成功裏に終えることができたのもご支援いただいた方々のおかげです。製造業者様には、継続的にご指導、議論に参加いただきました。また秋田県・食のあきた推進課の櫻井様はじめ県の職員の方々にも議論に加わっていただいたり相談にのっていただいたりと大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。誠にありがとうございました。
今年度は同様の形態で日本酒のフランス輸出促進をお手伝いしております。同じ形態といっても昨年度と異なることも多く、学生は活動を通して新たな学びを得ております。この件についても後日ご報告ができるよう学生と一緒に頑張ってまいります。
中川 秀幸
国際教養学部 グローバル・ビジネス領域 准教授
地域連携協働研究センター コーディネーター
この企画記事はAIU✕秋田県内企業連携プロジェクト(1)「EKIBEN ToriMéshi Bento」プロジェクトがCJPF2023準グランプリを受賞 の続編です。
大館駅の名物駅弁「鶏めし弁当」のフランス・パリ特設ストア開設に関する学生と県内企業のプロジェクトを紹介する記事も合わせてぜひご覧ください。
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